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人と物の分離と権利能力


『自分の私生活は公開しないくせに、受講者の私生活を知りたがる講師ばかり…怒…、そこで迷物講師は不平等な関係を改める為に、自分の私生活を積極的に公開しま~す…ハイ!…』



2006年(平成18年)に書いたメッセージです。

ライブドアに東京地検特捜部の強制捜査が入ったのをきっかけに、株式市場全体が混乱しているらしいですね。
きょうは、これについて思うことを、なるべく学問的に、宅建試験に役立つ方面から論評してみたいと思います。

(1)

自由主義社会は、フランス革命とイギリスの産業革命によって始まりました。
ともに18世紀後半のことです。

フランス革命で封建制度は終わりを告げ、人々は平等になりました。
これは、法的には「人と物の分離」を意味します。

封建時代は、人間なのに、物である場合がありました。
奴隷なんかが典型です。
奴隷は物だったので、平気で売買の対象とされました。

それじゃダメよ、人間は生まれながらにして平等でしょ!
ということで、「人と物の分離」が生じました。
「天は人の上に人をつくらず…」(福沢諭吉)っていうやつです。

そこで、すべての人間(個人)は、契約の当事者(主人公)になり、売買の対象にされることはなくなりました。

契約の当事者になれることを、専門用語で「権利能力がある」といいます。
今では、すべての人間に権利能力があるから、フランス革命は「人と物の分離」の功労者です。

(2)

ところで、イギリスの産業革命は奇妙な制度を生み出しました。
物なのに、人間と同じに扱われる制度を認めたのです。
それが「法人」制度です。
ライブドアのような株式会社が、法人の典型です。

(3)

法人は、人間じゃなく物なのに、契約の当事者になれる。
これが「法人」制度の中核です。

その結果、契約の当事者には、人間のほかに法人もなれることになりました。

法人に権利能力を与えたことで、イギリスの産業革命は「人と物の分離を弱める」方向に作用したと言えます。

もちろん、資本主義が今のように発達するには「法人」制度は不可欠でした。
人間しか契約の主人公になれないとしたら、大企業なんて一日も成り立ちません。
会社名義では契約できず、従業員全員の名義ですることになっちゃいます。

(4)

現在は、
「人と物の分離」を謳ったフランス革命と、「人と物の分離を弱める」イギリスの産業革命の考え方がミックスされた状況にあります。

そして、
・ 「人と物の分離」を重視するか
・ 「人と物の分離を弱める」ことを重視するか
で、企業経営に対する根本的な違いがあります。

(5)

ライブドア、村上ファンド、楽天などのヒルズ族は、
「会社は株主のもの」と言ってはばからないから、「人と物の分離」を重視する立場です。
彼らにとって重要なのは、株式という純然たる物の価格です。

反対に、
フジテレビ、阪神電鉄、TBSテレビは、「会社は従業員のものでもある」と言っているので、「人と物の分離を弱める」ことを重視する立場です。
彼らにとって重要なのは、従業員のヤル気・研究心という人的な要素です。

(6)

宅建試験の平成17年の[問1]肢(3)に、こんな問題が出ました。

「Aの、売買契約の相手方である買主の団体Dが、法律の規定に基づかずに成立した権利能力を有しない任意の団体であった場合、DがAとの間で売買契約を締結しても、当該土地の所有権はDに帰属しない。」 (答 ○)

きょうの私の文章を読んでくれた人には、もう簡単だと思います。

「契約の当事者には、人間のほかに法人もなれる」というのがキーワードです。
言い方を換えれば、権利能力を持てるのは、人間と法人です。

ということは、
「法律の規定に基づかずに成立した権利能力を有しない任意の団体」なんかは、売買契約を締結しても契約の当事者になれない(権利能力がない)のだから、その土地の所有権は帰属しない(持てない)ということになります。

なお、この問題に書いてあるような「権利能力を有しない任意の団体」で多いのは、学校の同窓会、町内会などです。

(7)

権利能力を前面に出した問題は、宅建では初出題だったので、少しでも印象に残ってくれればと、最近のヒルズ族の動向に引っ掛けて書いてみました。


2006年01月19日(木)記
2023年11月29日(水)追記



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