理由づけ
【1】
次のア.~エ.のうち,正しいものはいくつあるか。
ア.鹿にはツノがある。
イ.象にはキバがある。
ウ.虎にはツノがない。
エ.ライオンにはヒズメがない。
上のア.~エ.を宅建試験の問題だと無理に思って下さいね(笑)。さて,正しいものはいくつあるでしょうか?
答は4つ。ア.~エ.の全部が正しいです。
【2】
ほとんどの皆さまは正解したと思いますが,皆さまの脳は,どういう思考回路をたどって,正解に達したのでしょうか?
「ア.~エ.の知識なんか常識だ! 子供の頃から知ってる!」と答える人が多いと思います。それはそれで良いですが,今日は,皆さんにもう一歩踏み込んでいただきたくて,記事を書きます。
【3】
私たちが子供時代からしてきた学習のほとんどは,結論を覚えることに,意が注がれてきました。
ア.鹿にはツノがある。
イ.象にはキバがある。
ウ.虎にはツノがない。
エ.ライオンにはヒズメがない。
という結論さえ覚えられない子供は,すでに小学校で「落ちこぼれ」の烙印を押されたものです。逆に「成績優秀者」は,人より一つでも多くの結論を覚えることができた児童・生徒に与えられた称号でした。
こういう傾向は,昔も今も基本的には変っていません。
【4】
しかし,結論を覚えるだけの学習には,いろいろな欠陥がありまして,一番大きいのは「応用がきかない」ということです。
「応用がきかない」と,覚えなければならない知識の量が無限になります。
「ライオンにはヒズメがない」ことを知っていても,「チータにはヒズメがあるか?」と問われると,正解率が悪くなります。「サイにはヒズメがあるか?」と問われても,同じです。
「ウマにヒズメがあるのは知っているんだがな!」と話をはぐらかす人も出てきます。先日の我が家での夕食時,私は,息子と娘に同じ質問をしてみました。「サイにはヒズメがない」と答えたのは娘。「ウマにヒズメがあるのは知っているんだがな!」と話をはぐらかしたのは息子でした。
「迷物講師の子供じゃそんな程度だろう!」と言われればそれまでですが,こういう状況は,結論を覚える学習を推進してきた文部科学省や現場の教師にも責任があると思います。 ※
「チータにはヒズメがない」
「サイにはヒズメがある」
が正解です。

【5】
私が小学校の教師なら,こう教えますね。
ア.鹿にはツノがある。
イ.象にはキバがある。
ウ.虎にはツノがない。
エ.ライオンにはヒズメがない。
ア.~エ.はなぜ? という理由を教えます。
こんな風に教えます。
「ツノ・キバ・ヒズメは全部,草を食べる草食動物の特長なんだよ! 鹿と象は草食動物なのでツノやキバがあるんだ。他の動物に襲われた時の武器になるのがツノやキバで,草原を逃げる時に便利なのがヒズメというわけさ。反対に,虎やライオンは肉食動物だ。他の動物を追いかけるのにツノやキバがあると,行動のじゃまだろ。だから,虎にはツノがないんだ。ライオンは草原を逃げる必要がない肉食動物なので,ヒズメがないんだね。」
【6】
皆さまが短期合格を目指す宅建学習法においても,「理由づけ」を怠ると,「応用がきかない」ことになり,覚えなければならない知識の量が無限になる危険性があります。試しに,次の問題を解いて下さい。
宅建業者Aが自ら宅地の売主となり,宅建業者でないBが買主となる場合,Bがクーリングオフできる可能性があるものは,ア.~エ.のうちいくつあるか。
ア.Bが,喫茶店で買い受けた場合
イ.Bが,カラオケボックスで買い受けた場合
ウ.Bが,A主催の旅行先の温泉旅館で買い受けた場合
エ.Bが,知人宅で買い受けた場合

ア.~エ.の全部が「Bがクーリングオフできる可能性がある」ので,答は4つです。
イ.以外は過去問にあります。じゃこの記事を読んで,カラオケボックスが出るかもしれないと,御自分の参考書に書き込みでもしておきますか?
そんなことしたら無限(間)地獄です!

Bが,
・ 駅前の道端
・ 勤務先
・ 自宅
・ テント張りの案内所
・ 取引銀行の店舗内
・ 現地付近のホテル
で買い受けた場合はどうだろう? と疑問はいくらでも出てきます。

それに対して,ちょこっと「理由づけ」しておけば,無限地獄から開放され,応用力もついてきます。
【7】 理由づけ
そもそもクーリングオフ制度は,なぜあるか? から考えます。

クーリングオフ制度は,「衝動(しょうどう)買いしやすい場所」で買ってきたお客さんを保護するため,にあります。
ある女性が駅前を歩いていたら,イケメン男から英会話の教材を売りつけられました。いい男だったので,誘われるまま近くの喫茶店に入って契約してしまいました。こんな場合,宅建試験に無関係な法律でも,一定期間内なら契約を解除できると定めています。宅建業法のクーリングオフも,同じなんです。
そこで,
ア.Bが,喫茶店で買い受けた場合
イ.Bが,カラオケボックスで買い受けた場合
ウ.Bが,A主催の旅行先の温泉旅館で買い受けた場合
エ.Bが,知人宅で買い受けた場合
という問題も,
「喫茶店」「カラオケボックス」「温泉旅館」「知人宅」というそれぞれの場所が,「衝動買いしやすい場所」と認定できれば,「クーリングオフできる可能性がある」という結論を導けるのです。
「駅前の道端」「勤務先」「自宅」「テント張りの案内所」「取引銀行の店舗内」「現地付近のホテル」も同じです。「衝動買いしやすい場所」と認定できれば,「クーリングオフできる可能性がある」という結論を導けます。
「衝動買いしやすい場所」とは,さらに「かみくだく」と,通常は不動産を買う『心の準備が出来ていない』場所」という意味です。

「喫茶店」…通常はお茶を飲みに行く場所
「カラオケボックス」…通常は唄を歌いに行く場所
「温泉旅館」…通常は温泉に入ってくつろぐ場所
「知人宅」…通常は遊びに行く場所
「駅前の道端」…通常は歩行する場所
「勤務先」…通常はちゃんと仕事する場所
「自宅」…通常はくつろぐ場所
「テント張りの案内所」…通常は下見するだけの場所
「取引銀行の店舗内」…通常は銀行取引する場所
ですね。
だから,上の場所で買主が契約すれば衝動買いと言え,全部が「クーリングオフできる可能性がある」ことになるのです。
以上のような発想法を持たないと,短期合格は,相当きつくなります。
【8】応用力
ちょこっと「理由づけ」しておけば,無限地獄から開放されるだけでなく,応用力もついてきます。
今度は,実際の宅建試験問題を解いてみます(ただし文章は簡略化)。平成16年問42の肢(4)です。
売主を宅建業者A,買主を宅建業者でないBとする宅地の売買契約において,Aが他の宅建業者Cに宅地の売却の媒介を依頼している場合,BがCの事務所でその売買契約の申込みを行った場合でも,Bはその売買契約の解除(クーリングオフ)を行うことができる。
「理由づけ」に慣れると,こんな問題は,初心者でも「朝飯まえ」になります。まだ慣れていない人のために,ちょっと解説しておきますね。
(イ)
ここでも,クーリングオフ制度は,なぜあるか? から考えます。

クーリングオフ制度は,「衝動買いしやすい場所」で買ってきたお客さんを保護するため,にありました。そこで,売主Aが媒介(紹介)を依頼したC業者の「事務所」が,「衝動買いしやすい場所」かどうかを検討します。
前にも書きましたが,「衝動買いしやすい場所」とは,通常は不動産を買う『心の準備が出来ていない』場所」という意味です。C業者の「事務所」はどうでしょうか?
(ロ)
Cも不動産屋さん(宅建業者)です。不動産屋さんの事務所は,通常は契約する場所です。不動産を買う『心の準備が出来ている』場所ですね。だから,この問題のBさんは,「衝動買いしやすい場所」で買ってきたお客さんではありません。「衝動買いしにくい場所」で買ってきたお客さんなのです。
だから,Bさんはクーリングオフ制度の舞台にのぼることができず,解除できません。8日以内だろうが何だろうが,不動産屋さんの「事務所」で買ってきたお客さんには,クーリングオフ制度の保護が一切ないです。
したがって,この問題はバツの肢です。
(ハ)
以上のことを音声CDでしゃべるには5分も掛からないのですが,文章にすると,どうも長くなっちゃいます。
でも,今日書いた【6】【7】【8】あたりは,合格するための基本中の基本です。皆さまには,一日でも早く慣れて欲しいです。
(二)
なお,この記事が鹿のツノ,象のキバ,ライオンのヒズメ等の話から始まったのは,これを読んで下さった皆さまに,「宅建合格が終点」の人物になって欲しくないからです。
たかが宅建講師のくせに生意気と思われるかもしれませんが,せっかくの御縁ですので,「『理由づけ』って法律以外でも大切かも」と思って下さる方が一人でも増えればと…。
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