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抵当権制度の改正が目指すもの


民法学の大家「我妻 栄(わがつま さかえ)」先生(昭和48年没)の著書に、こういう文章が有ります。
 
「…民法の解釈には、二つの使命があるということである。
一つは、民法法規に対して、人によっても、事件によっても、その結果が異ならないような、一般的な確実性をもつ内容を与えることであり、
二つは、民法法規に対して、それぞれの場合に適用されて妥当な結果をもたらすような、具体的な妥当性をもつ内容を与えることである。
この一般的確実性と具体的妥当性とは、法規範の有する二大使命であるが、民法のように一般的な社会生活を規律する法律においては、とくに重要なものである。
しかるに、この二つの使命は、容易に調和しない。
一方を尊重すれば、他方が犠牲にされる傾向が強い。
従って、民法解釈の理想は、一般的確実性と具体的妥当性を調和させること、一層適切にいえば、一般的確実性を脅かさずに具体的妥当性を最大限に発揮することだ、といってよいであろう。」[民法講義Ⅰ(岩波書店)]
 
(1)

私がこの文章を紹介したのは、第一に、宅建受験者の皆さんに、御自分の国語力を試す材料にして頂きたいと思ったからです。

この文章を見て、何を言っているかをつかむために何度も何度も読み返さなければならない人は、宅建合格に必要な国語力という点では、かなりハンディを負っています。

新聞の社説を毎日読むなどして、まず読解力を身につけるのが先決です。
 
(2)

ほとんどの宅建受験者は、そのようなことはないでしょう。
そこで第二に申し上げたいのは、宅建の学習・勉強をしていて、上の文章のように少し堅苦しいものに出会ったときは、是非、自分なりに噛み砕いて読んで欲しい、ということです。
 
(3)

ところで我妻先生は、
「民法解釈の理想は…一般的確実性を脅かさずに具体的妥当性を最大限に発揮すること」と言われてます。
 
実は、「一般的確実性」を脅かさないことは簡単です。
 
一度出した法律は一切改正(判例による修正を含む)しなければイイんです。
例えば、民法の抵当権制度は明治31年に施行されましたが、それを全然改正しなければ、人によっても事件によっても、その結果が異ならないです。
時代を超えて「一般的確実性」が有りますね。
 
しかし、一般的確実性をどこまでも追い求めると、やっぱり調子悪いです。
時代の変化に付いて行けません。平成の現代に対応できません。
そこで必要となるのが「具体的妥当性」っていうやつです。
 
「具体的妥当性」のためになされる一番有効な手段、それが法律改正なんです。
平成16年4月1日から、抵当権制度が改正されましたが、まさに「具体的妥当性」のためです。
 
じゃ問題です。
時代の変化に対応するために、年中法律改正を行ったらどうなるでしょうか?

今度は、「一般的確実性」が完全に脅かされることになっちゃいます。
朝令暮改っていう四字熟語の世界になっちゃうわけです(この熟語を知らない人はヤバイので早速国語辞典を見てみましょう)。
 
どうも「一般的確実性」と「具体的妥当性」のどっちかに傾かせることは、ダメなようです。
 
「この二つの使命は、容易に調和しない。一方を尊重すれば、他方が犠牲にされる傾向が強い。」
と我妻先生が嘆かれるゆえんです。
 
(4)

今日は最後にもう一つ申し上げます。
 
今年4月1日からの抵当権制度の改正が目指す「具体的妥当性」は、ただ一つ。
抵当権の実行をやりやすくする」ということです。
 
抵当権を実行するのは債権者です。
債権者には普通、金融機関がなります。
だから今年の改正は、直接的には金融機関を保護するためと言えます。
 
今の資本主義は、金融資本主義(銀行を中心にお金が回らないとやっていけない主義)です。
「抵当権の実行をやりやすくする」と、金融機関は「お金を貸しやすく」なります。
そうすれば、銀行を中心にお金が回りやすくなり、金融資本主義がますます繁栄するというのが、今回の改正の「具体的妥当性」です。
 
以上を是非頭の隅にでも置いておいて下さい。
そうすれば、「改正法の細かい点にまで踏み込んで混乱し、それが原因で宅建の学校(予備校)の世話にならざるを得なくなる」、という人も減ってくると思います。

平成16年5月11日(火)記



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