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所有権の移転時期

(1)原則

民法176条は、「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」と書いてあります。

この条文を売買契約に引き直せば、所有権が移転する時期は、原則として売買契約の成立と同時と解釈することになります(通説・判例)。

(2)例外

例外 - その1(特約がある場合)

所有権が移転する時期は、売買契約の成立と同時という原則は、当事者(売主と買主)間に特約があればそれに従います

例えば、当事者が「代金完済時に所有権を移転させる」という合意をすれば、代金完済時が所有権の移転時期になります。

例外 - その2(他人が所有する場合)

民法561条は、「他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う」と書いてあるので、他人が所有する物についても売買契約は成立します。

でも、所有権が移転する時期は、売買契約の成立と同時ではなく、売主が他人の物を処分する権限を取得した時(例:他人から仕入れた時)です。

なぜならば、そもそも物権変動(物権の設定及び移転)を生じさせるには、その者がそれだけの権限を持っている必要があるからです。

何人(なんぴと)も、他人の物の所有権を勝手に移転させる権限(つまりドロボーする権限)はないのです。

例外 - その3(目的物が売買契約成立時に現存しない場合)

例えば私が、飼い猫の「お腹の中にいる猫」を千円で皆さんに売ると約束したとします。この場合でも、「お腹の中にいる猫」を目的物とする売買契約は成立します。

でも、「お腹の中にいる猫」の所有権が移転する時期は、売買契約の成立と同時ではなく、その猫が生まれた時です。

なぜならば、そもそも物権変動を生じさせるには、目的物が現実に存在している必要があるからです。

何人(なんぴと)も、まだこの地球上に存在していない(生まれ出ていない)物を所有することは不可能なのです。

このような考え方は、宅建業法で良く出てくる工事完了前の物件(未完成物件)にも、そのまま当てはまります。

この場合も、工事完了前の物件を目的物とする売買契約は成立します。

でも、これから建築する建物や造成中の宅地などは、完成物件としてはまだこの地球上に存在していない(生まれ出ていない)物なので、工事完了前の物件の所有権が移転する時期は、売買契約の成立と同時ではなく、その工事が完了した時です。

何人(なんぴと)も、まだこの地球上に存在していない(生まれ出ていない)物を所有することは不可能なのです。

例外 - その4(一定の取引について行政庁の許可がいる場合)

私が農家だったとします。めんど臭いので、農地法5条の許可を受けないで農地を宅地にするつもりで皆さんに売りました。この場合でも、農地法5条の許可を受けなかった農地の売買契約は成立します。

でも、その農地の所有権が移転する時期は、売買契約の成立と同時ではなく、農地法5条の許可があった時です。

所有権が移転する時期を、原則どおり売買契約の成立と同時にしてしまうと、農地法の許可制度が台無しになるので、このような取扱いがされるのです。


2009年11月18日(水)記
2023年11月11日(土)追記



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