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宅建「金太郎飴」からの脱却

(1)イントロ

平成24年度の宅建試験が終わって3週間以上が経過したので、私の合格点予想を知るためだけにこのブログを訪問して下さるかたも、だいぶ減ってきました。

いいかた換えると、今年の本試験の中身を検討してみたいというかた、あるいは、そろそろ勉強の話を聴きたいというかたが、増えてきたように思います。

そこで手始めに、平成24年度【問41】を材料に、 中身を検討してみたいと思います。

相変わらずの金太郎飴解説(どこを切っても同じような解説)が蔓延していますが、私なりのオンリーワン解説を書かせて頂きます。

(2)平成24年度【問41】はこんな問題

宅地建物取引業者A社による投資用マンションの販売の勧誘に関する次の記述のうち、宅地建物取引業法の規定に違反するものはいくつあるか。

ア A社の従業員は、勧誘に先立ってA社の商号及び自らの氏名を告げてから勧誘を行ったが、勧誘の目的が投資用マンションの売買契約の締結である旨を告げなかった。

イ A社の従業員は、「将来、南側に5階建て以上の建物が建つ予定は全くない。」と告げ、将来の環境について誤解させるべき断定的判断を提供したが、当該従業員には故意に誤解させるつもりはなかった。

ウ A社の従業員は、勧誘の相手方が金銭的に不安であることを述べたため、売買代金を引き下げ、契約の締結を誘引した。

エ A社の従業員は、勧誘の相手方から、「午後3時に訪問されるのは迷惑である。」と事前に聞いていたが、深夜でなければ迷惑にはならないだろうと判断し、午後3時に当該相手方を訪問して勧誘を行った。

(1)一つ
(2)二つ
(3)三つ
(4)四つ

(3)事例アの説明

ア A社の従業員は、勧誘に先立ってA社の商号及び自らの氏名を告げてから勧誘を行ったが、勧誘の目的が投資用マンションの売買契約の締結である旨を告げなかった。

答は、宅建業法の規定に違反します。



契約の締結の勧誘に際して、会社の名称や勧誘の目的などを告げないことによるトラブルが多発するようになったので、お客さんが勧誘を受けているという認識を明確に持てるように、勧誘に先立って、宅建業者名、担当者名、勧誘目的を告げずに勧誘を行うことが、平成23年10月1日から禁止されました(宅建業法施行規則第16条の12第1号ハ)。



「勧誘に先立って」っていうのは、契約の締結のための勧誘行為を開始する前に、という意味です。

勧誘を行うに当たっては、お客さんが勧誘を受けるか拒否するかを判断する機会を勧誘行為を開始する前に確保することが重要なので、そのように定義されます。

電話勧誘の場合は、お客さんに電話が繋がった時点で告げなければならず、訪問勧誘の場合は、お客さんと接触して会話を開始した時点で告げなければなりません。

だから、投資用マンションの勧誘目的なのに、その目的を告げる前に、「将来の資産運用に関して説明をさせて欲しいのですが」などと言うことは、「勧誘に先立って」勧誘目的を告げたことにはなりません。



以上のように考えれば、事例アが宅建業法の規定に違反していることは、容易に判断できるでしょう。

しかも単なる暗記ではない本当の理解が蓄積されるので、もし今年ダメだったとしても、来年は一皮剥けた受験者に変身しているはずです。

(4)事例イの説明

イ A社の従業員は、「将来、南側に5階建て以上の建物が建つ予定は全くない。」と告げ、将来の環境について誤解させるべき断定的判断を提供したが、当該従業員には故意に誤解させるつもりはなかった。

答は、宅建業法の規定に違反します。



事例アの説明でリンクした宅建業法施行規則第16条の12は、その第1号イで、契約の目的物である宅地又は建物の将来の環境又は交通その他の利便について誤解させるべき断定的判断を提供することを、禁止しています。



事例イは、「建物の将来の環境…について誤解させるべき断定的判断を提供すること」に当たります。

「将来、南側に5階建て以上の建物が建ってしまったら」、日当たり等が悪くなり大変ですもんね。



このような断定的判断の提供は、故意がなくてもダメ(禁止)であり、宅建業法に違反します。わざとじゃなくて過失でもダメということです。

宅建業法はお客さんを保護する法律であり、「過失(不注意)でした!」なんていう言い訳を許すとお客さんの保護にならないので、他の宅建業法の定めも、故意がなくても業法違反になっちゃいます。覚えておくといいです。

事例イのような違反は、宅建業法上は第47条の2第3項という条文の違反になり、それは、宅建業法第65条で指示処分や業務停止処分の対象になります。

ちなみに、事例イのような行為をしても、過失の場合は、宅建業法上の罰則を適用することはできません。

(5)事例ウの説明

ウ A社の従業員は、勧誘の相手方が金銭的に不安であることを述べたため、売買代金を引き下げ、契約の締結を誘引した。

答は、宅建業法の規定に違反しません。



宅建業法第47条第3号は、「手付けについて貸付けその他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為」を禁止しています。

なぜならば、このような行為が行われると、お客さんは宅建業者に対する借金(手付部分が借金)が残るので、お客さんは、その後気が変わっても契約解除などが出来にくく、お客さんの保護にならないからです。



でも事例ウでは、売買代金を引き下げただけであり、「手付けについて貸付けその他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為」はしていません。

つまり、お客さんは宅建業者に対する借金など残っていないのです。

だから、事例ウは単なる値下げであり、宅建業法違反の痕跡はどこにもないです。

(6)事例エの説明

エ A社の従業員は、勧誘の相手方から、「午後3時に訪問されるのは迷惑である。」と事前に聞いていたが、深夜でなければ迷惑にはならないだろうと判断し、午後3時に当該相手方を訪問して勧誘を行った。

答は、宅建業法の規定に違反します。



宅建業法施行規則第16条の12は、その第1号へで、深夜又は長時間の勧誘その他の私生活又は業務の平穏を害するような方法によりその者を困惑させることを、禁止しています。



ここで禁止しているのは、

・ 深夜の勧誘
・ 長時間の勧誘
・ その他の私生活又は業務の平穏を害するような方法によりお客さんを困惑させること

です。



事例エは、「午後3時に当該相手方を訪問して勧誘を行った」と書いてあるので、これなら深夜じゃないからOKじゃないか! と考えて「宅建業法の規定に違反しない」と答えた人が多そうですが、それは違います。



事例エは、「その他の私生活又は業務の平穏を害するような方法によりお客さんを困惑させること」に当たるかどうかがポイントになるのです。

お客さんから、「午後3時に訪問されるのは迷惑である」と事前に聞いていたのに、「午後3時に訪問して勧誘した」ことが、「私生活又は業務の平穏を害するような方法によりお客さんを困惑させたか?」です。



なぜ宅建業法施行規則第16条の12第1号への条文ができたかというと、それは、社会通念上(常識から)、明らかにお客さんが迷惑を覚えるような不適当な時間に勧誘を行うことによる苦情が多かったので、個々のお客さんの立場から見て不適当な時間帯における勧誘を禁止するためです。

だから、「個々のお客さん」ごとの職業や生活習慣に応じて、個別に判断されなければなりません。

社会全体の常識からみれば、午後3時は、一般に営業活動をすべき時間でしょうが、事例エのお客さんは事前に「午後3時に訪問されるのは迷惑である」と言っているのです。

「個々のお客さん」ごとに考えれば、夜勤等で午後3時には寝なければならない人だっているでしょう。日本人がみんな昼間の仕事とは限らないのです。

こう考えると、事例エは、「私生活又は業務の平穏を害するような方法によりお客さんを困惑させた」に当たり、宅建業法の規定に違反していると判断できるでしょう。

(7)結論

したがって、平成24年度【問41】は宅建業法の規定に違反するものはア・イ・エの3つなので、正解は(3)になります。

(8)蛇足

もう一度言いますが、宅建の過去問練習は、以上書いてきたようにするんです! 金太郎飴の過去問集しか持っていなければご自分の頭のなかで…。

「今年ダメかも」と落ち込んでいる皆さまでも、今回のような長い記事を読みこなせるのだから、ダメが現実になっても、ぜひ、来年は一皮剥けた受験者に変身して欲しいです。

私が常々申し上げている単なる暗記ではない本当の理解とは、今回書いてきたような作業をすることです。

人によっては時間が掛かるでしょう。そこを我慢するっきゃないのです。
我慢はお金では買えません

なんて偉そうなこと書きましたが、久しぶりに法律的な文章を書いたら疲れちゃいました。今年は、本試験終了後3週間遊んでましたんで…(笑)。


平成24年11月14(水)記
令和 3年10月16(土)追記


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