無心論者なのに線香臭い言葉を使いますが、ちょっとした出来事も、この世の因縁です。
宅建受験者の皆さんと知り合えたのも、この世の因縁、まさに「そで振り合うも他生の縁」です。
そこで、特に独学で頑張っている人に言いたいです!
法律の勉強は次の3つに大別できます。
(1) 法律の「知識」を仕入れる勉強
(2) 知識をもとに法律を「解釈」する勉強
(3) その他(法哲学・法史学など)
宅建受験者がするのは、上の(1)、つまり法律の「知識」を仕入れる勉強です。
賃借権はこういう制度だという「知識」だけモノにすれば、宅建の問題は出来ます。
それに対して、裁判官・弁護士・検察官を目指す人がするのは、上の(2)、つまり知識をもとに法律を「解釈」する勉強です。
これを法解釈学といいいますが、「知識」だけモノにしても、試験問題は出来ません。
法律の条文は抽象的に出来ているので、具体的な事件を扱う仕事では、条文の意味を解釈しなければならないのです。
刑法199条は、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」と定めていますが、この条文の「人」の意味さえ解釈しなければならないことがあります。
人というのは、言うまでもなく「生きた人」ですが、臓器移植では脳死状態の人が「生きた人」かが問題になります。脳死状態でも「生きた人」だと解釈されれば、脳死の人から臓器を取り出せば殺人罪が成立する可能性がでてくるのです。
特に独学でやっている宅建の勉強は、あまり面白くないと思います。
法律の「知識」を仕入れるだけの勉強に、うんざりしている人も多いでしょう。
でも、ここが我慢のしどころですよ!
法律の「知識」を仕入れるだけの段階を乗り越えると(宅建に合格すると)、裁判官・弁護士・検察官を目指さなくても、その知識をもとに法律を「解釈」するステップに進めます。
不動産屋さんの実務についている人は、いやでも法解釈学の世界に入ります。
ここは結構面白い世界です。
テレビの弁護士ドラマのように、生身の人間模様を法律的観点から覗けることもあります。
不動産屋さんの実務につかなくても、面白くなる人は多いです。
例えば自己啓発のために受験した人でも、宅建合格を機に、自分の得意な分野で法解釈できるようになった人は何人もいます。
今は面白い世界に入る前の修行だと思って、たかが「知識」の暗記とアナドルことなく、知識の正確さを身に着けて欲しいです。
そして願わくは、ゴロ合わせもほどほどに、「知識」の存在理由を意識した勉強もして下さい。法解釈は生身の人間を扱う大人の作業であり、子供が塾でする勉強とは全然違います。
ここを履き違えると、宅建に合格した後も、ステップアップはナカナカ望めないでしょう。
宅建講師でも、法解釈を学んだ経験がなく、知識だけで仕事をしている人は大勢います。
きょうは、因縁で知り合った宅建受験者の皆さんに、以上のことが言いたかったんです!
※
あと3年もすると(平成21年5月までに)、国民から無作為で選ばれた裁判員が裁判官と一緒に裁判する「裁判員制度」がスタートします。
1年間で33万人が選出されることもあります。皆さんも私も選ばれる可能性があります。裁判員は殺人などの重大な刑事事件を担当します。
それなのに、「法律なんて子供が塾でする勉強と同じ」なんて考える裁判員が大勢選ばれたら、この国はどうなっちゃうんでしょう。
平成18年5月24日(水)記