宅建の出題者に物申す - その1
宅建試験はどういう基準で出題すべきか、ちゃんと国土交通省が定めています。
国土交通省令(宅建業法施行規則)では、
「宅建試験は、宅地建物取引業に関する実用的な知識を有するかどうかを判定することに基準を置くものとする」、と決めています。
私は結構長く宅建講師をやっていますが、今年もまた、不思議な問題に出くわして胸が痛いです。
それは、平成18年[問17]肢(4)=正解肢=でした。
こんな問題です。
「国土利用計画法の事後届出が必要な土地売買等の契約を締結したにもかかわらず、所定の期間内にこの届出をしなかった者は、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる」
宅建試験の出題者には、一部だが、資質に問題がある人がいるように思います。
(1)
上のような問題を出す人は、第一に、国土交通省令を守っていません。
届出義務違反者の罰則が「6月以下の懲役又は100万円以下の罰金」であることを知っていることが、どうして「宅地建物取引業に関する実用的な知識を有する」ことと関係するのか!
私の知り合いの複数の弁護士に聞いても、そんな事まで「知らねぇーよ」と言ってます。
(2)
第二に、上のような問題を出す人は、刑事手続の基本さえ知りません。
届出義務に違反したら、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金に「処せられる」と断定していますが、そうとは限りません。
例えば、検察官の所で起訴猶予処分になることもあるのだから、この問題の語尾は「~に処せられることがある」としなければ、法的不正確さを免れません!
(3)
その点、昔の出題者はしっかりしていました。
次の資料を見ればわかるでしょう。
語尾がちゃんと「~に処せられることがある」となっています。
<<資料>>
平成2年[問17]肢(1)
土地所有者Aの業務に関し、BがAの代理人として、国土利用計画法の規定に違反して、事前届出をしないで土地の売買契約を締結した場合、Bが6月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられることがあるほか、Aも6月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられることがある。 答マル 正解肢
昭和63年[問17]肢(4)
国土利用計画法の規定に違反して、届出をしないで土地売買等の契約を締結したときは、注視区域及び監視区域外の場合であっても、6月以下の懲役に処せられることがある。 答マル 正解肢
(4)
昔の出題者も、国土交通省令を守っていないことでは同じ穴のムジナですが、法的な正確さは、現在の一部の出題者よりマシだったと思いませんか?
以上、
この記事を読んでいるかも知れない出題者に、20万人近い宅建受験者を代弁して物申す!
宅建の出題者に物申す - その2
これから宅建の勉強を始める人には難しい話をしますが、最後まで読んでくれると、少しはいい事あるかもしれません。
(1)
「自己の所有に属しない宅地又は建物について、宅地建物取引業法に定める一定の場合を除いて、自ら売主となる売買の予約を締結することは、宅地建物取引業法の規定により禁止されている」(平成13年[問45]事例イ)。
この問題に対する予備校の解説はこうです。
事例イ
予約を含めて禁止されている。根拠条文は宅建業法33条の2。
したがって、正しい記述である。
宅建業法33条の2というのは、下の条文です。
「宅地建物取引業者は、自己の所有に属しない宅地又は建物について、自ら売主となる売買契約(予約を含む。)を締結してはならない。ただし、次の各号の一に該当する場合は、この限りでない。
1号
宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得する契約(予約を含み、その効力の発生が条件に係るものを除く。)を締結しているときその他宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得できることが明らかな場合で国土交通省令で定めるとき。
2号
当該宅地又は建物の売買が第41条第1項に規定する売買に該当する場合で当該売買に関して同項第1号又は第2号に掲げる措置が講じられているとき。」
この問題を、宅建業法33条の2に限定した出題と考えると、予備校の解説は正しいです。
33条の2の1号と2号を除いて、自ら売主となる売買の予約を締結することはできない、と書いてあるのが33条の2だからです。
しかし私は、今から5年前、この予備校の解説に異を唱えました。
「宅地建物取引業法に定める一定の場合を除いて」という部分は、なにも「33条の2の1号と2号を除いて」と読む必要はない! というのが私の考えでした。今も変わりません。
宅建業法全体を眺めてみると、この問題に関係する条文は33条の2だけではないです。
78条2項という条文もあります。下の条文です。
第78条2項
第33条の2及び第37条の2から第43条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない。
78条2項をも射程に入れると、「業者間取引」ではそもそも33条の2は適用されないのだから、問題文の「宅地建物取引業法に定める一定の場合を除いて」という部分は、「宅建業法に定める業者と非業者の取引の場合を除いて」と読めることになります。
つまり業者間取引です。
業者間取引では、自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約(予約を含む)は禁止されていないではないか!
私は、このようにして予備校の解説に異を唱えたのでした。
マトメると、こういうことです。
問題文の「宅地建物取引業法に定める一定の場合を除いて」という文章について、
・ 予備校の解説 =「33条の2に限定して1号と2号を除いて」と読む = 禁止される
・ 私の解釈 =「業者と非業者の取引を除いて」と読む = 禁止されない
(2)
話がだいぶ難しくなってきましたが、私が上の平成13年[問45]事例イで異を唱えた頃からずっと思ってきたことがあるので、もう少し読んでチョーダイです。
それは、
一部の出題者、予備校のほぼ全部は、宅建試験の問題について「全体を眺める視点」が欠けている、ということです。
平成13年[問45]事例イだって、宅建業法「全体を眺める視点」があれば、当然、78条2項を射程に入れなければなりませんでした。
いま各掲示板等で問題になっている平成18年[問49]肢(3)の論争も、元は、予備校の解答・解説が「全体を眺める視点」に欠けていることに、端を発しています。
この問題は、建築基準法施行令44条2項だけを見れば、「2階建ての木造建築物の土台は,例外なく、基礎に緊結しなければならない」ので、予備校の解説の通り、正しい肢になります。
でも、建築基準法関連の法規「全体を眺める視点」があればどうでしょうか?
構造計算をすれば施行令44条2項を回避するルートがあるので、「例外なく」と記載されていれば、法律的にも国語的にも、誤りの肢です。
(3)
上のほうで指摘した平成18年[問17]肢(4)についても、やっぱり同じです。
こんな問題でした。
「国土利用計画法の事後届出が必要な土地売買等の契約を締結したにもかかわらず、所定の期間内にこの届出をしなかった者は、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる」
国土利用計画法47条1号の条文だけに目を奪われると、この問題の語尾を「処せられる」と断定的な言葉で結んでも良さそうに見えます。
しかし出題者には、いやしくも法律系の国家試験に携わる以上、ぜひ刑事手続「全体を眺める視点」を失わないでほしいです。
そうすれば、検察官の所で起訴猶予処分になることもあるのだから、この問題の語尾は「~に処せられることがある」とすべきです。
(4)
古来、
真の知識人は、小さなことに目を奪われず、常に「全体を眺める視点」をもっていたと思います。
きょう取り上げた
・ 平成13年[問45]事例イ
・ 平成18年[問49]肢(3)
・ 平成18年[問17]肢(4)
の不明朗さは、すべて、出題者ないし予備校の「全体を眺める視点」の欠如に根源がある! というのが私の意見です。
関係各位には、ぜひ参考にして頂きたいと考えます。
平成18年11月1日(木)記
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