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タコ部屋

そのむかし、北海道の炭鉱などで監禁同様にして働かせた作業場を「タコ部屋」と呼び、そこに拘束した労働者を「タコ」と蔑称(べっしょう)していました。

転じて現代では、キャリア官僚が法案を作成する部屋を「タコ部屋」と呼ぶのは、案外知られていることです。

法案作成時期になると、一週間自宅に戻れないキャリア官僚も多く、謙遜をこめて、法案作成専用部屋のことを自ら「タコ部屋」と称しています。

話かわって今年の宅建試験ですが、
私には「タコ部屋」経験のあるキャリア官僚から宅建関係者へのメッセージと受け取れる問題が、ニ肢ほどありました(宅建試験の問題作成者は現時点では非公表ですが、例えば国土交通省のキャリア官僚が作成者に入っていることは、講師の間では定説です)。

(1)

一つ目は平成19年問23の肢(2)です。

「都道府県知事は、造成宅地防災区域について、当該区域の指定の事由がなくなったと認めるときは、その指定を解除することができる。」という問題です(答:正しい表現か誤りの表現か不明の肢)。

「タコ部屋」経験のあるキャリア官僚は、だれでも、初歩の立法技術として「~するものとする」という文言(言葉)の使い方を叩き込まれます。

この問題の正誤を左右する宅地造成等規制法20条2項の語尾は、「解除するものとする」と書いてあります。

「~するものとする」という言葉は、
・ ~することができる(任意)
・ ~しなければならない(強制)
のどちらの意味にも使える便利な言葉だということを、「タコ部屋」経験のあるキャリア官僚は叩き込まれているのです。

だから私には、「オマイラわかってくれよ!」という宅建関係者に向けたメッセージをひしひしと感じるわけです。

そんなこと全然感じない関係者もいるようですが、これは「タコ部屋」経験のある友人がいないなど、情報ネットワークの少なさが原因だと思います。

(2)

二つ目は平成19年問35の肢(3)です。

「平成19年10月に新築の工事に着手した建物の売買において、当該建物が指定確認検査機関、建築士、登録住宅性能評価機関又は地方公共団体による耐震診断を受けたものであるときは、その内容を買主に説明しなければならない。」という問題です(答:誤った表現の肢)。

平成19年度の受験では、「耐震診断を受けた建物は重要事項の説明が必要」という有名な知識がありました。

この知識だけを頼りにすると、問35の肢(3)は正しい表現と判断してしまいそうです。

この問題は、宅建業法施行規則16条の4の3、第4号の知識なのですが、実はこの条文、ザル法なのです!

ザル法とは効き目のない、骨ぬきにされた条文のことです。

平成17年に発覚したA元建築士の耐震強度データ偽装事件で、監督官庁の国土交通省も、世間からずいぶん批判されました。

このような事件が発覚した以上、
国民の生命・財産を大地震から守るのを最優先に、何ら限定をつけず、「耐震診断を受けた建物は重要事項の説明が必要」という風に、宅建業法施行規則を改正するのが、タコ部屋にこもって法案作成に従事するキャリア官僚の役目でしょう。

でも、そうは出来なかったのですね!

いま問題にしている宅建業法施行規則16条の4の3、第4号には、「その建物が昭和56年6月1日以降に新築の工事に着手したもの」であるときは、耐震診断を受けた建物でも重要事項の説明をしなくてよい、という限定文句が付いちゃっているのです。

これじゃ、「耐震診断を受けた建物は重要事項の説明が必要」という条文が、すごい骨ぬきになっちゃってます。

昭和56年と言えば1981年、今から26年も前です。
つまりこの条文は、「築26年以上で、かつ、耐震診断を受けた建物」だけ重要事項の説明をすればよい、と書いてあるのです。

新築はもちろん、築25年より建築年数が新しい建物は、たとえ耐震診断を受けたとしても、そのことを重要事項として説明する義務なんかないのです。

問35の肢(3)は、新築の工事に着手したのが平成19年10月と書いてあるので、誤った表現の肢になるのです。

A元建築士の耐震強度データ偽装事件は、国民の誰もが知っています。

でも、宅建業法施行規則16条の4の3の骨抜き条文は、ほとんどの国民が知りません。宅建受験者でさえ知らない人の方が断然多かったでしょう。

「タコ部屋」で法案作成に携わるキャリア官僚には、正義感の強い人も大勢います。

そういう官僚がザル法を作らざるを得なかった悔しさを、宅建関係者を通じて世間に知らせたい!

私は、この問題にも「タコ部屋」経験のある正義感旺盛なキャリア官僚のメッセージが込められている気がして、しょうがないのです。


宅建業法施行規則16条の4の3原文

平成19年11月19日(月)記
令和 3年10月20日(水)追記


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