新耐震基準で言いたい事
(1)
新耐震基準とは、震度5程度ではほとんど損傷がなく、震度6強~7の地震でも倒壊しないとされる建物の耐震強度のことです。
上の定義は法律的には不正確ですが、宅建受験者の方に興味を持って頂くために、宅建試験に合格できる範囲で、迷物講師が作りました。
(2)
地震国であるわが国では、地震による建物の倒壊には、昔から相当の関心が寄せられてきました。
でも、地震に強い建物を作るのは、有る意味では簡単でした。
建築にお金を掛ければいいのです!
近代建築技術が全然なかった時代の法隆寺の木造建築物がいまだに健在なのがその証拠です。姫路城・彦根城が健在なのも同じ理屈です。
ただ、お寺や大名が相当お金を掛けて建てた建築物でも、まれに大地震による倒壊は起きました。そういう時、その建築物を作った大工の棟梁は打ち首・獄門になったという記録が江戸時代にはあります。
当時の大工さんは大変でしたね。命がけの仕事であると同時に、非常に高いモラルが要求されていたんですね。
(3)
時は下り大正9年(1920年)になると、今の建築基準法の前身に当たる市街地建築物法という法律ができました。
大正デモクラシー、つまり庶民の時代ですから、お寺や大名のように耐震強度にお金を掛けさせるわけにも行きません。
そこで政府は、運を天にまかせるしかないと考えたのでしょう。市街地建築物法には、建物の耐震強度に関する規定は全然設けられませんでした。
そこに天罰が下りました!
大正12年(1923年)に相模トラフを震源とするマグニチュード7.9の大地震が発生したのです。これが関東大震災というやつです。死者は99,331人に達したとの記録があります。
その後、昭和初期から太平洋戦争終結に至るまでは、戦時色が濃くなり、政府も地震対策なんてのんきな事を言っていられない時代が続きました。
(4)
太平洋戦争が終わり戦後の混乱がようやく終結した昭和25年(1950年)になって、今の建築基準法ができました。
建物の耐震強度に関する規定はありましたが、きわめて幼稚なものでした。
その幼稚さが最初に露呈したのが、昭和43年(1968年)に起きた十勝沖地震です。鉄筋コンクリート造の函館大学が潰れたのです。そこで昭和46年(1971年)に耐震基準が改定されました。これが旧耐震基準です。
でもまだ甘かったです!
今度は昭和53年(1978年)に宮城県沖地震が発生し、東北地方を中心に大きな被害をもたらしました。そこでまた、昭和56年(1981年)に耐震基準が改定されました。これが現在の宅建試験にも関係してくる新耐震基準です。
この新耐震基準は、業界関係者の間では、今でも有効とされています。
平成7年(1995年)に起きた阪神・淡路大震災でも、新耐震基準で設計された建物の被害は非常に少なかったからです。
(5)
宅建受験者の方に興味を持って頂くためにこの記事を書いているので、話の主人公を庶民にして、もう少し続けますね。
業界用語に「モクミツ」っていうのがあるんですが、これは木造密集地の事を指します。
東京都で言うと、新宿区・中野区・板橋区・豊島区あたりの、駅から少し離れた場所がモクミツ(木造密集地)です。
こういうモクミツ地帯は、太平洋戦争直後に建った一戸建て住宅が密集した所で、新耐震基準で設計された建物が極端に少ないです。新どころか旧耐震基準で設計された建物も、ほとんどないです。
その原因は、宅建受験者の皆さんが勉強する「構造計算」という言葉にあります。
構造計算というのは、その建築物が「震度いくつの地震に耐えられるか」というような建築の理論に基づいた計算のことですが、モクミツは、そもそも構造計算なんかしないでも建てられた建物なんです。
そしてここが重要なのですが、「耐震基準うんぬん」というのは、構造計算をする上での基準なんです。
だから、そもそも構造計算なんかしないでも建てられる建物に住んでいる庶民(つまりモクミツ居住者)は、新耐震基準の恩恵を受けていないのです。政府が初めから命の保証なんかしていない、といっても過言じゃないです。
木造の場合に構造計算が必要なのは、
・3階以上
・延べ面積500㎡以上
の、どちらかの要件をみたす大規模なものに限られます(ここは試験に出ます)。
モクミツ地帯でそんな大規模木造にお住まいの方は、数えるほどしかいないでしょうね。
(6)
宅建の勉強をしていると、建築基準法以外でも、所得税・不動産取得税・登録免許税・贈与税などの所で新耐震基準という言葉に出くわすでしょう。そうしたら今日の記事を思い出して下さると幸いです。
それにしても今年は平成22年(2010年)。新耐震基準が出来たのは昭和56年(1981年)。30年近く経っているのに「新」がつくとはねぇ~!
もっとも東海道新幹線が出来たのは昭和39年(1964年)。46年経っても「新」を使ってもいいのがこの国なんですねぇ~~~!(笑)
平成22年6月2日(水)記
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