(1)イントロ
平成22年度の過去問解説も、私が調べた限り、「問題文丸写し・条文丸写しの手抜き」が横行してますね。
そんな過去問集を使って何千題の問題をこなしても、時間の無駄になることが多いでしょう。
そこで、私ならこう解説するという事を、平成22年度【問12】の肢(2)を材料に書いてみます。
(2)平成22年度【問12】の肢(2)の問題文
Aは、B所有の甲建物につき、居住を目的として、期間2年、賃料月額10万円と定めた賃貸借契約(以下この問において「本件契約」という。)をBと締結して建物の引渡しを受けた。
AがBとの間の信頼関係を破壊し、本件契約の継続を著しく困難にした場合であっても、Bが本件契約を解除するためには、民法第541条所定の催告が必要である。
(3)迷物講師の解説
誤り。したがってこれが正解肢。
「民法第541条所定の催告」とは、履行遅滞があった場合に、履行遅滞された者は、履行遅滞した者に「早くしてくれ!」という催告をし、それでも履行されないときでなければ契約を解除できない、という民法の定めのことだ。
でも最高裁判所の判例は、本肢のような事情があるときは、541条所定の催告が必要ない(直ちに契約を解除できる)としている。
例えば、Aが甲建物を極端に乱暴に使った(例:建具類を破壊して燃料にし、かつ、建物全体をゴミ屋敷状態にした)のに、Bから早く修復してくれとの再三の請求に全然応じない場合(履行遅滞した場合)、賃貸人Bが契約を解除するには催告が要らない、というのがこの判例だ(私はこの判例を「ゴミ屋敷判例」と勝手に名付けてる)。
そもそも賃貸借契約は、当事者相互の信頼関係を基礎とする契約だから、妥当な判決と言えよう。
(4)コメント
(イ)
良い解説とは、
・ 形だけ(条文だけ)ではなく、マルバツの実質的な理由を示してくれるもの
だと信じます。
でないと、宅建の勉強に興味が持てず、勉強に集中できないからです。
宅建の勉強に興味が持てない人は、「人間の集中力は長続きしないから、宅建の勉強なんて夏からやればいい」なんて妙な理屈をつけて、結局は間に合わなかった人(宅建をナメテいた受験者)が結構います。
(ロ)
マルバツの実質的な理由に重きを置くと、本肢の場合、「民法第541条所定の催告」を説明してくれない解説があったら、そんなのはクソです。
(ハ)
また、「AがBとの間の信頼関係を破壊し,本件契約の継続を著しく困難にした」ことの具体例を説明してくれない解説があったら、そんなのもクソです。
(二)
実は本肢は、昭和27年4月25日の最高裁判例を材料に作られているのですが、これは上にも書いたように、賃借人Aが建物を極端に乱暴に使った(例:建具類を破壊して燃料にし、かつ、建物全体をゴミ屋敷状態にした)事例でして、それはそれはひどい賃借人でした。
まだゴミ屋敷状態になる前、建具類を破壊した建物内では、いたずら盛りの男の子三人が野球をできる状態だったそうです。
そこで、さすがの最高裁も、賃貸人Bから早く修復してくれとの再三の請求に全然応じない行為(履行遅滞)について、「民法第541条所定の催告」はいらないよ! と結論付けたのです。
その理論的根拠をなしたのが、「そもそも賃貸借契約は、当事者相互の信頼関係を基礎とする契約だ」という理論だったのです。
(ホ)
某サイトによると、平成22年度【問12】の正解率は54.4パーセントだそうです。
私は、予備校関係者の統計なんか信用してませんが、もしこの統計が正しかったら、正解肢の(2)は、賃借権の無断譲渡・賃借物の無断転貸の場合の解除には催告が要らない、という有名な知識との混同が逆に幸いしたのではないか、と思ってます。
無断譲渡・無断転貸は履行遅滞じゃないので、「民法第541条所定の催告」は関係しません。
でも本試験の作成者は、無断譲渡・無断転貸と混同した受験者を救ってあげようとしたのかも知れない、なんて考えてます。
そう考えると、平成22年度【問12】は「取らせてあげる」問題にカウントされていたのかも知れません。
さらに話を広げると、その辺が、今年の合格ラインが36点になった遠因にもなっているような気がします。 後講釈ですが…。
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